「蛇を踏む」について | 声優ぺちゃの吹き替え日記

「蛇を踏む」について

たった3日の朗読会なのに、疲労困憊してしまっていましたが、
やっと、体力が回復してきました。

ナサケなー

一ヶ月とか、ぶっ続けで舞台をやっている役者さんってすごいなー、と改めて思いました。

普段、自分がいかにマイクに頼って仕事しているかを、
しみじみ感じます。

でも、前回はこれほど疲れなかったんだけどなー。

やっぱり、今回は選んだ作品が作品だけに
相当エネルギーを消耗したみたいです。

で、朗読会におこしいただいた方
(特に川上弘美ファンの方)から、
「なぜ、川上作品の中でも、あの「蛇を踏む」を選んだのですか ?」
というご質問を、結構およせ頂くので、
ここに、書いておきたいと思います。

前回は、関西弁で「ジョゼと虎と魚たち」(田辺聖子作品)
をやり、演劇関係者の方々からも、結構好評を頂戴しました。

今回は当初、浅田次郎の、ある作品を考えていたのですが、
諸々の事情から、できなくなり、急遽別の物を探しました。

この浅田作品に対して、私は一年近く、
絶対これをやりたいという思い入れが非常に深く、
これが出来ないのであれば、全く違った雰囲気の物に挑戦したい
という気持ちになっていた時に、
私がやっている朗読のコミュで、
川上弘美さんの作品をお勧めいただきました。

それまでは、川上作品と言えば「先生の鞄」しか読んだ事がなく、
最初、「蛇を踏む」を読んだ時は、
「なんて奇妙で不思議な世界なんだ!!」
と、思いましたが、
なぜか妙に心惹かれるものがありました。

ただ、全編を朗読してみると、1時間30分弱かかり、
かなり大幅にカットしなければならないことがわかりました。

それで、他の川上作品も色々読んで、
もっと手頃な物がないか探してみたのですが、
やはり、「蛇を踏む」に感じた衝撃を超えるものはみつからず、
50分にまで縮めて、この「難物」に挑戦する事に決めました。

他の共演者は、「さっぱり訳がわからない。。。」と、
呆気にとられていましたが、
わたしが、これをやろうと思った理由は、ただ一点、
主人公のヒワコに感じたシンパシーです。

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人との付き合いが上手くないヒワコは教職で消耗し、
カナカナ堂に雇われるが、
それはヒワコ自身が「ただの店番」と自嘲する閑職である。

おそらくは、そんな仕事しか見つからなかった訳ではなく
ヒワコは好んでこの仕事を選んだのであり、
それは、社会復帰したくないヒワコの
後ろ向きな、逃げの姿勢の現れなのだ。

そのヒワコの、後ろ向きな心の隙を見抜いて、蛇が住み着き、

「蛇の世界はあたたかいわよ。
 ずっと沈んで眠っていられるよわよ」

とヒワコを誘惑する。

蛇の世界に惹かれながらも、
向こうに行ってしまったら
人間としてダメになると分かっているヒワコは、
何とか踏みとどまろうと、蛇と戦う。

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これを読んで、実は、
「私の心の中にも、蛇が住んでいる」と
強烈に感じたのです。

いや、私だけでなく、もしかしたら
誰の心の中にも蛇が住んでいるのではないか、と。

蛇との戦いに勝つ人も居るが、
負ける人もいる。
戦いつづける人も居る、と。

この作品を、テンションを下げないで50分間を持たせると言うのは、当初予想していたよりも、はるかに難しく
稽古を進めていく中で、私も矢島も非常に苦労し、
矢島は、「やはりこの作品を50分というのは、かなり辛いかも」
と思った事もあったみたいですが、
なんとかゲネで、
「やっと形にできたかなー。」
と言う感じまで持ってくる事ができました。

しかしながら、現在の私の力量で安定した結果を毎回出すには、
この作品は、まだまだ荷が勝っていたようで、
反省点は多々残っています。

ご批判は色々あると承知しておりますが、苦しみながらも、
自分の手に余るこの難物と、数ヶ月間格闘したことは、
私にとって、本当に良い勉強になりました。

同時に、川上弘美という作家との出会いは
私の人生において非常に貴重な出会いであったと感じています。