あっけにとられた話(その一) | 声優ぺちゃの吹き替え日記

あっけにとられた話(その一)

朗読会の昼の部に、声優の卵である男子が来たとお思い下さい。

彼は、前回の朗読会で音響オペレーターを担当してもらった人である。

今回は手伝いを頼まなかったのだが、

「手伝いますよ」

と電話をして来たので、

「人手は足りているから、お手伝いよりも、朗読を観にきてよ」

と言ったところ、やったきたのだそうだ。
ところが、入り口で木戸銭を払わず入ろうとしたという。

で、受付係が
「あのー、入場料を…」
といったところ、怪訝な顔をして、
「お金がないんだよねー」と言ったという。

その挙句、昼の部が終わった後に、
夜の舞台の準備でバタバタしている私を捕まえて、
久しぶりに会ったというのに、挨拶もそこそこに、

「あのー、お菓子ないですかー?」と言う。

私は咄嗟にこの質問の意味が判らず、

「えっ?お菓子?どこかにあると思うけど、何に使うの?」

と、聞くと、

「小腹が空いているので、なんかちょっと腹に入れたいんです。」

と、真顔で言うのである。

あっけにとられた私は、返す言葉も無く呆然としていると、
彼は、会場に上がりこんで、
夜の舞台に備えて、お握り等を食べている出演者&スタッフのど真ん中に座り込み、
私たちの食事を平然と食べだした。

その後、みんなが無視していると、
いつのまにか帰って行ったのだが、

帰り際まで、木戸銭を出し渋っていたという。

これが、先輩のやっている舞台を観に来た後輩の態度だろうか?

実は彼は、1年前の朗読会の時、
私の「ジョゼと虎と魚たち」のクライマックスで、
音楽を流すのを間違えて、
矢島先生のナレーションを流してしまうという、
大チョンボをした人である。

その前日にも、
やはり、別の作品の冒頭で同じような間違いをしたのだが、
次の日も、何らその失敗から学習することなく、
クライマックスの決定的なところで、同じ間違いをやらかし、
結果、楽日の私の舞台は滅茶苦茶になってしまった。

しかし、間違いは人間ならだれでもやることだし、
ライブなら、なおさらトラブルは起こるものだ。
私はそう言って彼を慰めたし、許してもいた。

しかし、今回の彼のこの傍若無人な行動で、
去年の出来事がまざまざとよみがえり、
こんなバカヤローに、私はあんなに慰めの言葉をかけたのか…
と思うと、自分もアホに思えて来た。

これが声優を目指して勉強中だというのだから
何をか況や…です

それにしても、こういう人って、蛇より恐いよ。。。